7節 帝国軍内での不和

 アリミヌム救出は一人の損失も出すことなく達成され、ベリサリウスの軍事的才覚の新たな証明となったが、ナルセスにとっては彼の影響力を抜きに企てられなかったことだったためにそれは道徳的な大成功であった。最高司令官と侍従との間で不信と不和が起こり、無血の勝利はこの不和が帝国軍の目的に及ぼした損害でほぼ相殺された。将軍に従属して行動することは自分の職務の権威を下位に置くことになるとナルセスは感じ、彼の友人たちもそうだと彼を説得し、彼は自身の裁量に基づいてイタリアに連れてきた軍を動かすことを決めた。この決定に則って彼はベリサリウスからの要望や命令を繰り返し辞退し、ようやくにしてベリサリウスは状況を処断するべく軍議を招集した。
 この会議でベリサリウスは最初は総司令官としての自身の権利を主張したり不服従の廉でナルセスを叱責したりはしなかった。彼は敵は敗北とは程遠く、ウィティギスは未だラヴェンナに一〇〇〇〇人の軍勢を擁しているし、リグリアの状況は深刻であるし、大規模で勇敢な守備隊がいるアウクシムムは未だ占領されていないし、もう一つの似たような要衝ウルブス・ウェトゥスも同様であると指摘した。彼は軍の一部を重大な危機にあるミラノの救出のためにリグリアに送り、残りの軍をフラミニア街道の南と西のゴート軍の諸要塞に向けるべきであり、そして手始めにアウクシムムに向けるべきだと提案した。ナルセスの答え、帝国軍の全軍をアウクシムムとミラノという二つの目的地に集中させるのは不適切だと強く主張した。ベリサリウスはその試みを行うのではなく、アエミリア州の征服をすべきだ、とナルセスは主張した。これにはラヴェンナのゴート軍主力を留め置くという有望な利点があり、そうなれば彼らはベリサリウスの攻撃を受けた場所へ助けを送ることができなくなるだろう。しかしベリサリウスは軍の分割に関わる計画に反対し、自身の権限を盾にとって決定した。彼は皇帝が最近イタリアでの部隊の指揮官たちに宛て出した手紙を示した。それはこのような文言であった。「我々の事務官ナルセスをイタリアに送るにあたって我々は軍の指揮権を付与しない。ベリサリウスだけが彼が良いと思うように全軍を率いるのが余の願いであり、貴下ら皆には我らの元老院のために彼に従う義務がある」
 最期の文言にはナルセスがただちに利用することができるような曖昧さがあり、それは服従の義務を限定する保留するものとして解釈された。ベリサリウスの計画は元老院の意向通りではないので我々は彼に従うよう縛られないとナルセスは言った。その原則は戦略計画の妥当性について異なった見解を持つ余地をあらゆる司令官に開いておくものであったため、ユスティニアヌスが軍事的な混乱を論理的に導くような原則を出そうと意図していたとは考えにくい。「元老院の意向において」という文言の差し込みが総司令官の権限の掣肘を目論むものであることはありえないと今のところ我々は考えることができない。というのも、もし皇帝が本当に無条件の服従を差し止めるつもりだったならば、問題になっている文言は完全に不要であるからだ。信頼する私有財産の管理者が軍務のために選ばれたという事実はユスティニアヌスが戦争の進展に不満を持っており、ベリサリウスが必要な勢力をもってそれを遂行していたのかどうかを疑っていたという疑いを支持する。我々はこれがナルセスの個人的な反対であったと述べはしたものの、彼がベリサリウスからイタリア征服の分割されない栄光を奪おうと望んだと主張するには程遠いだろう。
 ベリサリウスは自身の主張を実行に移す立場になく、本格的な断絶を避けるだけの十分な自制心を持っていた。事態は当面のところ順調に進み、指揮官たちの共同作戦は親愛とは程遠かったものの続いていた。 大部隊がウルブス・ウェトゥスへ向けて派遣され、ベリサリウスは再びアウクシムム奪取の意図を延期してナルセスおよびヨハネスを伴いつつウルビウム包囲のために進軍した。しかし競合する指揮官の軍が混ざることがなく、彼らは市の東西に分かれて野営した。アリミヌムから強行軍で一日の旅程に高い丘の上に位置するウルビウムの守備隊はベリサリウスからの降伏の提案を拒絶し、豊富な蓄えを持ち、市の強力さを信じていた。ナルセスはその地が難攻不落であると見て取ると留まるのは時間の無駄と考え、アリミヌムに撤退しようとしてカエセナへ向けて全軍の指揮を与えてヨハネスを送った。この地の占領のため、包囲をしたがっていたヨハネスはフォルム・コルネリイ(イーモラ)へと進軍して奇襲によって占領し、次いで易々とアエミリア州全域を制圧した。
 一方で幸運がベリサリウスの手に舞い降りてきた。ウルビウムは一つの水源から水を得ていた。突如として渇きが起こって水が絶たれるとゴート軍にできたことは降伏のみであった。ナルセスはひどく残念がりながらこの成功の知らせを受け取ったと言われている。




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